リモートセンシングについて(その2) | 中川 伸 |
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フィデリックスのリモートセンシングの効果は大きく分けて2つあります。第1は低音のf0付近の過度特性が良くなるので、低音はパッと立ち上がり、音が止まればパッと切れる感じになります。低音楽器の明寮度が上がり、力強くなって、スタッカートが出易くなります。リモートセンシングをかけない場合は大げさな表現になってしまいますが、立ち上がりが遅れ、その分、音が止まっても余韻として残るので柔らかく膨らんだ感じになります。
第2は音の聴感上の歪感が減ることです。ご存知の通り、スピーカーコードの接触部分によって音は高域がにぎやかになりがちです。電線も純度が悪いと同様ににぎやかで乾いた感じになります。しかしリモートセンシングをかけると、接点がなくなったかのように、または、電線の純度が上がったかのように澄んだ音に聴こえ、微妙な違いまでが良く分かるようになります。当社にてリモートセンシングの比較試聴ができる環境が整いましたので、御予約の上、どうぞ聴いてみてください。
最近、トリオ(現ケンウッド)のKA-900をたまたま入手し、シグマドライブの回路定数を調べたら驚いたことがあります。シグマドライブが有効に動作する周波数は何と1.6kHz以下になっていたのです。これでは音質改善のうちでウーハーのダンピングを良くする事にしか働きません。フィデリックスが50kHz〜80kHz以下の広い帯域で有効に動作するよう設定しているのとは大きな違いです。
KA-900のリモートセンシング用ネットワーク回路のコンデンサーはバイポーラのケミコンで、抵抗はカーボンか、あるいは酸化金属皮膜抵抗です。これでは音質改善に本当に効果があるのかについてもやや疑問です。ではなぜこういうことになっていたのか、私なりに推理してみました。
KA-900は非常に多機能なプリメインアンプで、なんとMC用のヘッドアンプまで内蔵されています。しかも価格は79,800円と安価です(LB-4はモノラルのパワーアンプで220,000円)。スピーカーはAとBとA+Bとヘッドフォンが選択できます。また、ポップノイズ防止用に出力リレーがあります。こんな条件下でリモートセンシングを行うには色々と難しいことがあります。
技術陣は特許まで出願していたので、多分、まじめにリモートセンシングを検討していたと思われます。しかし、当時はこの商品分野は非常に競争が激しかったので、他社には無い特徴を何としても営業的に組み込みたかったのでしょう。そこで、難しい条件下でもシグマドライブを搭載することになり、周波数範囲を狭くすることで、いくらかでも安定性を配慮をしての搭載だったのでしょう。そして、コストダウンの必要性から部品は極力安いものにせざるを得なかったものと思われます。
しかし、ご存知の通り、シグマドライブはまもなくやめてしまいました。どうやらユーザーの接続ミスやらスピーカーコードが異常に長い場合は発振するなどの現象があったようです。最近L-02Aを修理に出した人のネット情報によると、修理の担当者はなるべくシグマドライブを使わないようにとコメントしているとのことでした。現在のケンウッド社はオーディオ用アンプをもう作ってはいませんし、シグマドライブは30年近くも前のことなので、書くことにしたものです。
つまり、ここで言いたいことは、フィデリックスが世界で初めてLB-4へ搭載し、CERENATEにも搭載したリモートセンシング技術と、トリオのシグマドライブ技術は設計意図と効果の点では別物だということです。
2009年5月1日